物忘れとは

物忘れ

物忘れは誰にでも起こるもので、多くは加齢に伴って増えることから老化現象のひとつ(良性健忘)でもあります。同じ物忘れの症状がみられる病気で認知症というのもあります。注意しなければならないのは後者です。

同じ症状が現れることから良性健忘と認知症の物忘れはわかりにくいと思われがちですが、これらを見分ける方法はあります。例えば単なる物忘れ(良性健忘)であれば、朝ご飯のメニューは忘れたとしても食べたことは覚えています。一方認知症患者様の場合は、食べたこと自体を忘れているほか、物忘れをしているという自覚もありません(良性健忘では自分が物忘れをしている自覚があります)。ただ上記のことだけで判断するのは、なかなか容易ではありません、ご本人だけでなく、ご家族の方が気づいたという場合も遠慮なく、当クリニックにてご相談ください。

以下のような症状に心当たりがあれば、ご相談ください

  • 物の名前が思い出せなくなった
  • しまい忘れや置き忘れが多くなった
  • 何をする意欲も無くなってきた
  • 物事を判断したり理解したりする力が衰えてきた
  • 財布やクレジットカードなど、大切な物をよく失くすようになった
  • 時間や場所の感覚が不確かになってきた
  • 何度も同じことを言ったり、聞いたりする
  • 慣れている場所なのに、道に迷った
  • 薬の管理ができなくなった
  • 以前好きだったことや、趣味に対する興味が薄れた
  • 鍋を焦がしたり、水道を閉め忘れたりが目立つようになった
  • 料理のレパートリーが極端に減り、同じ料理ばかり作るようになった
  • 人柄が変わったように感じられる
  • 財布を盗まれたと言って騒ぐことがある
  • 映画やドラマの内容を理解できなくなった など

認知症とは

認知症

認知症とは、主に脳の病気や外傷といったことが原因で、脳の機能障害が継続的に進行してしまうことです。記憶障害をはじめとする認知機能障害(見当識障害、遂行機能障害、失行、失語など)が現れるようになり、それによって日常生活に影響が及んでいる状態を言います。

また同疾患は、高齢になるほど有病率が高くなるのが特徴で、65~69歳では1.5%程度なのですが、85歳以上では27%となっています。高齢化社会が進む日本では、今後も上昇していくことが考えられます。

なお上記の表で挙げたような症状がみられ、認知症が疑われる場合は、問診で記憶障害や認知機能障害の状態を確認し、その後に神経心理検査(知能、記憶検査等)、血液検査、頭部の画像検査(CT、MRI)、脳波検査など詳細な検査をしていき、診断をつけていきます。

認知症を完治させる治療法は現時点では確立されていません。しかし、軽度な認知症の状態で発見することができれば、進行を薬などによって遅らせることは可能です。それゆえ、早期発見・早期治療というのが重要なのです。

認知症のタイプについて

発症の原因は、変性性認知症(脳の神経細胞が変性を起こすことで発症するタイプ)と脳血管性認知症(脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって発症するタイプ)に分類されます。日本人の全認知症患者様の9割以上が4つの種類の認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症)が原因であることから、これらを四大認知症と呼んでいます。それぞれの特徴は以下の通りです。

アルツハイマー型認知症

認知症の原因としては最も多く、日本人の全認知症患者様の5~6割を占めると言われています。これはβアミロイドたんぱくという特殊なたんぱく質が脳内に蓄積し、さらに加齢、ストレスなどの要因が加わるなどして、脳の神経細胞が脱落、これによって脳が萎縮し、記憶障害、見当識障害、思考障害といった症状がみられるようになります。女性の患者数が多く(男女比は1:2)、70歳を過ぎた頃から発症率が上昇するのも特徴です。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症とは、脳内(主に大脳皮質や脳幹)にレビー小体という特殊なたんぱく質が蓄積してしまうことで、脳の神経細胞が破壊され、それによって認知症の症状(幻視、妄想 など)やパーキンソン病でみられる症状(手足のふるえ、筋肉が硬くなるなど)が現れている状態を言います。

前頭側頭型認知症(ピック病)

前頭葉と側頭葉の前方が萎縮してしまうことで発症する認知症ですが、この場合は脳の一部の神経細胞にピック球が見られることもあることからピック病とも呼ばれています。比較的若い年代(40~60代)で発症するケースが多いのも特徴です。なお発症原因については、現時点では判明していません。

よくみられやすい症状は、発症初期では、人の話を聞くことなくしゃべり始める、愛情や親近感が湧かなくなるといった自制力の低下、異常行動、常同行動(決まった行動をとる)などです。さらに症状が進行すると言葉を理解することが困難になるなどの症状も現れます。

脳血管型認知症

脳血管の異常(主に脳梗塞や脳出血)によって、脳内の神経細胞が機能障害をきたし、それによって発症する認知症です。このタイプは、障害部位に限定して認知機能が低下することから、まだら認知症の症状がみられるようになるほか、神経症状(運動障害、感覚障害、言語障害など)、喜怒哀楽の感情がコントロールできないといった状態にもなります。

治療について

認知症の治療の目的は完治させるものではなく、進行を遅らせる、あるいは認知症で見受けられる症状を改善させるために行います。具体的には薬物療法と薬物を用いない非薬物療法になります。治療法については、認知症のタイプによって多少異なります。

アルツハイマー型認知症では、認知機能をできるだけ低下させないために脳内の神経伝達物質を増やすとされるコリンエステラーゼ阻害薬などを使っていきます。なおレビー小体型認知症の患者様にも同様のお薬を使用していきますが、さらにパーキンソン病の症状があれば、抗パーキンソン薬も併用していきます。また前頭側頭型認知症(ピック病)には、有効な薬物療法はありませんが、異常行動などの症状を抑える必要がある場合は抗精神薬を用います(対症療法)。

また脳血管性認知症の患者様の場合、脳血管障害を再発させると認知症をさらに悪化させることから再発防止のための薬物療法が行われます。ただしこれは脳血管障害を発症させる主な原因とされる生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)で行われる薬物療法となります。

非薬物療法については、タイプに関係なく全ての認知症患者様が対象になります。この場合、まだ完全には失われていない認知機能等を薬物療法以外の方法でも行っていくことで、より病状の進行を遅らせようというものです。

具体的には、まだ残っている認知機能を活かせるよう無理のない程度で、家庭内での役割を与えるなどしてポジティブに日常生活を送れるようにする、あるいは適度に学習意欲を刺激するなどして、計算ドリルや書物の書き取りなどをしていく認知リハビリテーションやリアリティ・オリエンテーション(自分や自分のいる環境を正しく理解していく訓練)といったことを行っていきます。